未提出解答を供養(憲§21)

1年春の期末(未出題)。内容はいじってませんが、誤字脱字は直しました。

 

 

問:表現の自由の意義、名誉やプライバシー保護に関する法律上の制度、裁判所による事前抑制について整理した上で、名誉毀損、プライバシー侵害表現に関する判例を考察せよ。

 

 SNSが普及した今日において、日本国憲法21条が保障する表現の自由は、その重要性とともに、多くの国民にとって日常的に意識されるものとなっている。以下では、21条の意義について整理した上で、名誉、プライバシーに関する法制度、裁判所による事前抑制について整理し、それらに関する最高裁判例について考察する。

 21条の意義について述べる上で思想の自由市場論は重要な役割を持つ。思想の自由市場論とは、情報収集によって情報が蓄積され、情報が提供され、受け手が情報を受領する過程において、真理へ到達させる最上のテストは市場の自由競争であり、これに国家が介入することは許されないとする考え方である。

 21条の価値について、個人が表現活動を通して自己の人格を発展させる個人観としての自己実現の価値と、国民が表現活動を通して政治的意思決定に関与する民主観としての自己統治の価値が21条の保障根拠として挙げられている。また、表現の自由は回復困難な「傷つきやすく、壊れやすい権利」であり、規制されるだけでなく、将来規制されるという威嚇を受けただけでも萎縮させられやすいという性質がある。これらは前段落の思想の自由市場論を補強するものである。

 名誉、プライバシーの保護に関する法制度に関して、名誉毀損は刑法230条、民法709、710、723条で追及でき、社会的評価の低下が要件であり、個人にのみ適用されるという特徴がある一方で、プライバシー侵害は主に民法709、710条で追及でき、公然となっていない私的な情報の侵害が要件であり、社会的評価の低下はいとわないという違いがある。この違いに効果的な見解を示したのが有名作家である三島由紀夫による小説の内容が争点となった「宴のあと」事件である。最高裁は本事件で初めてプライバシー権を認め、プライバシー侵害の要件として私事性、秘匿性、非公知性を挙げ、後の判決に影響を与えた。この判決から名誉毀損とは異なり、真実性の要件と社会的評価の低下は不要であるということが言え、上記の名誉とプライバシー保護に関する法制度の違いを裏付けるものとなっている。

 裁判所による事前抑制は、手続きが簡潔であり、事前に差し止めを行うため、救済効果は大きいが、抑制効果も大きいという特徴がある。裁判所による事前抑制に関する判例として、北方ジャーナル事件がある。最高裁は、裁判所は人格権に基づいて事前抑制を行う権利を有するが、表現行為の事前抑制については厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されるという慎重な姿勢を示した。また、公務員などに対する評価・批判への事前抑制は原則として許されないが、表現内容が真実でなく、または、専ら公益を図る目的でないことが明白であり、かつ、被害者が重大かつ著しく回復困難な損害を被る虞があるときは、例外的に許されるとして、具体的な要件を示した。

 学説上、表現内容が真実であっても事前抑制が認められる余地があるため、「表現内容が真実でなく」と「公益を図る目的でないことが明白」が「または」で結ばれていることに対する批判や、差止請求権の根拠を不法行為というよりも人格権に見出すのであれば、表現者の主観的な要素を判断するのは妥当でないという見解もある。

 以上、21条の意義について整理した上で、名誉、プライバシーに関する法制度、裁判所による事前抑制について整理し、それらに関する最高裁判例について考察したところである。

 

(参考)

・「宴のあと」事件:東京地判昭39・9・28下民集15巻9号2317頁

北方ジャーナル事件最大判昭61・6・11民集40巻4号827頁

・安西、巻美、宍戸「憲法学読本(第3版)」有斐閣

・たぶん講義の内容